第7話:絆
……くん ‥‥‥くん
誰かが……呼んでいる……
…くん。 …武田くん。
だんだん声が大きく聞こえて…
武田くん!
起きてよ!…武田くん‼
目が覚めた。 車は停まっている。
眠っていたのか… それとも…
祐二はふと智子を見た。
気がついたのね!
よかった…
本当によかった……
泣きながらも必死に笑顔を見せようとする智子。
祐二はゆっくりと身体を起こした。
そして気づいた。
強く握られている手…
そこから伝わる「絆」という名の「ぬくもり」‥‥‥
眠ってたんだ‥‥‥俺。
痛みはどう?
マシになった?
善通寺の時よりかは…
でも…まだ痛むんだ…
そう…
ずっと、手を握っていてくれたんだね…
握っていないと不安だったし…
武田くんが、どうにかなっちゃうん
じゃないかって…
祐二は、フロントガラス越しに周りを見渡した。
サービスエリアのようだが、何しろ初めて訪れた場所…
車が他に数台停まっている程度で、人影も少ない。
ここ…どこ?
【いよ西条】
っていうインターを越えたら
サービスエリアが見えたの。
いよ西条… ってことはもう愛媛県内に入ってるんだ‼
地図を見る二人。
「いよ西条」からすぐのサービスエリア… 「石鎚(いしづち)山SA」か!
時計を見ると、午後3時30分を過ぎたところ…
この分だと、夕方には
松山に着くね。
私、頑張る‼
本当に…ごめん…
いいの!
ただ…1つお願いがあるんだけど…
何?
この手…
もう少し握らせておいて…
うん…分かった。
再び車は走り出した。 一路松山へ向けて。
その時、祐二はふと考えた。
確かにこのまま高速を走れば松山には着くけど…
着いた先で病院を探すことを考えると、松山まで高速を使うと反ってタイムロスでは?
それならいっそのこと、手前で高速を降りて病院を探す方がいいかもしれない…
祐二は痛みを堪えながら…
ねえねえ。
松山の1つ手前のインターで
高速を出ようよ。
えっ⁈
このまま高速を走っていても
病院がどこにあるかは分からないまま。
だからいっそ手前で降りて病院を探す方が
いいと思うんだ。
分かった。
じゃあ次の【川内】っていう
インターで降りるね。
川内インターで高速を下り、2人は病院の看板などを探しながら車を走らせる。
陽が傾き始め、時間は午後5時を過ぎた時、ついに!
あった‼
武田くん、あったよ‼
愛媛大学病院。
2人にようやく笑顔が戻った。 助かった…
夜間入り口前で車を停め、中へ。
痛みで歩くこともままならない祐二ではあったが、智子の支えでやっと受付へ。
事情や症状を説明した後、とりあえず「尿検査」をと言うことになり、
祐二は紙コップを手にトイレで検査用の尿を採取して、排泄を済ませようとした時、
カラン‼
ん?何の音かなぁ?
あまり気にも留めなかった祐二であったが、その「音」が聞こえた直後
あれ?
‥‥‥え?
さっきまであれだけ堪え切れなかった痛みが、何事もなかったかのようにスーッと消えて行く…
どうなってんの?
とにかく戻ろうと、祐二は智子の元へ。
どう? 採れた?
採れたんだけど…
痛みがなくなったんだ…
痛みが…なくなった??
程なくして診察室に通された祐二。
これまでの痛みのことや今、検査のために排泄している際にトイレで聞こえた「音」のこと、その直後に痛みが治まったことなどを医師に話すと、
はっきりとは判らないけど、
どうやら尿管結石だったようだね。
尿管結石⁈
まあ今、痛みが治まっているんなら
大丈夫だとは思うけど、一応痛み止めを
渡しておこう。
ところで、2人で旅行中と聞いたが…
はい。
彼女、泣きながら一所懸命私に
「彼の痛みを治して」って頼んでたよ。
あなたのことを何よりも大切に想っている。
いい娘だ…大切にしてあげなさい。
はい!
先生、ありがとうございます。
素敵な旅になることを祈っているよ。
おだいじに。
こうして2人は病院を後にし、道後温泉本館近くのホテルへ。
お互い疲れてはいたが、気分は晴れやかだった。
松山観光は明日にして、2人は早めに眠ることに。
どれくらい時間が経っただろう…
武田くん、起きてる?
ああ。
起きてるよ。
明日は、今までの分も
まとめていっぱい楽しもうね!
もちろん!
心配かけた分の倍以上に
楽しい想い出をいっぱい作ろう‼
2人は笑顔を交わしながら、眠りに就いた。
お互いの手を握りしめながら…
(次回へつづく)
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