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わが懐かしのおばけ鉄塔【ノンフィクションドラマシアター】

ノンフィクションドラマシアター
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今回の「NON SEALD」は、ノンフィクションドラマシアター。

筆者の人生の中での想い出に残るエピソードをドラマ仕立てでお送りする内容です。

普段なかなかお伝えできない、筆者の人となりを垣間見ていただければ幸いです。

今回の話は

わが懐かしのおばけ鉄塔

筆者が小学3年生の頃に体験した想い出に残るエピソードになります。

ご覧いただく人も、ご自身の当時の様子を振り返りながら、どうぞ最後までお付き合いください。

それでは、開演です!


私が小学3年生の頃のこと。

私の家は貧乏であったため、家に車などという便利な乗り物はなく

家族みんなで出かける際には、決まってバスを利用していた。

 

各自の移動については「自転車」であり

唯一、父だけが通勤に使うという理由で「バイク」であった。

ある日曜日の昼下がり、一本の電話が入った。

私が電話を取ると、隣町に住む伯母からであった。

「たくさん野菜が採れたから、お父さんと一緒に取りにおいで」とのこと。

 

父も仕事が休みであり、特に用事もなかったので「しょうらく。一緒に行くか!」と。

父のバイクに乗せてもらい、隣町の伯母の家へ。

初めて乗せてもらったバイク

自転車とは違い、周りの景色がものすごい速さで通り過ぎて行く。

 

私の家から伯母の家までは、ほとんど一本道。

ただ、途中に急な山道があり、自転車で行くには大変なことから

伯母の家に行く際には「バスで大回りする」「バイクで行くか」であった。

 

山道を上り、林道を抜けると急に辺りが開け、雑草の生い茂った所に一基の巨大な鉄塔が。

 

初めて見る鉄塔に「一抹の不安」を抱いた私。

 

なぜか急に怖くなり、父の背中に顔を埋めて

バイクが早く通り過ぎてくれることを祈っていた。

伯母の家に着くと、冷たい麦茶を用意してくれた。

野菜をたくさん頂き、伯母に御礼を言ってから

再びバイクに乗せてもらって、来た道を帰る。

するとまたしても目の前に「あの鉄塔」が…

怖くてたまらなくなり、またしても父の背中に顔を埋めて、通り過ぎるのを待った。


そんなことが幾度か続いたある日の午後のこと。

学校から帰った私が、ランドセルを置いてマンガを読んでいると

 

「しょうらく~。ちょっと」   隣の部屋から母の声が。

 

しょうらく:「お母さん。何か用事?」

  母 :「これを伯母さんの所に届けて欲しいんだよ」

母から差し出されたものは一本の「帯」

  母 :「今度伯母さんとこの娘さんが高校へ入学するんだけど、式に着て行く着物の帯が汚れてしまったらしくてね」

しょうらく:「ふ~ん。じゃあこれを届けてくればいいんだね」

  母 :「頼んだよ」

私は「バスで行く」ものだと思っていたので、バス代をもらおうと手を差し出そうとした。

その時、母が私に言った。

  母 :「道は分かってるよね」 

しょうらく:「へ?!」

  母 :「まあ一本道だし、お前の自転車には変速機が付いてるから山道でも大丈夫」 

しょうらく:「ちょ…ちょっと待ってよ。自転車で行くの?」 

  母 :「そうだよ」 

しょうらく:「ぼく一人で?」

  母 :「当たり前じゃないか。もうお前3年生なんだよ。一人でおつかいできなくてどうする」

しょうらく:「でも…」

  母 :「いいから、早く行っといで!伯母さんも待ってるから!」

母の勢いに「鉄塔が怖い」とは言えず、渋々私は自転車に乗り、伯母の元へ。

急な山道を上りきり、いよいよ「あの場所」へ…

ゆるやかなカーブを曲がると、そこには「あの鉄塔」が。

私は鉄塔を見ないように、そして急いで通り過ぎようと懸命にペダルをこいだ。

『もうそろそろ通り過ぎたかな?』

私はそう思っておもむろに顔を上げると…

巨大な鉄塔が私の目の前に!

『うわぁ!』っと思った瞬間、バランスを崩して左側の砂利道に転倒。

しばらくして左の腕や肘、膝に痛みが。

見ると、左手首から肘にかけてかなり深い擦り傷ができ、膝にも擦り傷…

痛みをこらえながらも 『そうだ!帯!』

転倒したことでどこかへ放り出されたかも…

しかし、帯はしっかりとかごの中に入っていた。

ホッと一安心。したのも束の間、傷がさらに痛み出してきた。

『とにかく、これを伯母さんに届けないと』

私は自転車を押し、痛みに耐えながら、なんとか伯母の家へ。


伯母の家に着くやいなや

伯 母:「まぁ!どうしたんだね、その傷!」

私は痛いのと怖かったのと情けないのとが複雑に織り交ざった感情を抑えきれず

伯母に抱きついて泣いた。

ひとしきり泣いた後、伯母が傷の手当をしてくれた。

伯 母:「はい!。これで大丈夫だよ!」

笑 楽:「伯母さん、ありがとう」

伯 母:「でも、どうしてそんな傷…自転車で転んじゃったのかい?」

笑 楽:「うん…」

モジモジしながら話す私に、伯母が。

 伯 母:「しょうちゃん。ひょっとしたら鉄塔が怖かったんじゃないのかい?」

しょうらく:「へ!?何で知ってるの?」

 伯 母:「本当はこの帯が要るのはもっと先の話なんだよ。この間しょうちゃんがお父さんと一緒に野菜を取りに来た日があったろう?あの日、お父さんが私に話してくれたんだよ」

姉さん、息子のしょうらくは誰に似たのか甘えん坊で、ちょっとのことでも怖がるんだよ。

今日もバイクに乗せて来たけど、ここへ来る途中に鉄塔があるだろう?
あれが怖いみたいで、私の背中にしがみついて見ないようにしているんだ。

しょうらくは末っ子だけど、男の子なんだからもっと逞しく成長してもらいたい。
鉄塔が怖いからって怖気づくような子にはなってほしくないんだ。

だから姉さん、今度しょうらく一人でここへ来させるようにするから協力してもらえないか

こんな風にね。

しょうらく:「そうだったの…」

伯 母:「しょうちゃん。鉄塔がどうして怖いのかは伯母ちゃんは聞かないよ。でも、こう思っておいてほしいんだ。

あの鉄塔は、しょうちゃんや伯母ちゃんたちが毎日楽しく暮らせるように見守ってくれている。

そしてしょうちゃんがあの道を通って来る度に『頑張れ!』って応援してくれている。

帰る時には『よく頑張ったね!またおいで!』と言って、しょうちゃんに手を振ってくれている。

こう思ってほしい。できるかい?

しょうらく:「うん!分かった!」

伯母と別れて、来た道を帰る。

鉄塔が近付いて来るが、来たときよりも不思議に「怖さ」は感じなかった。

むしろ、伯母が話してくれたように『またおいで!』と言ってくれているように感じていた。

「おばけ鉄塔」と怯え、父の背中にしがみついてばかりいた「男の子」はいつしか

「また来るからねー!」

そう叫んで、鉄塔の前を笑顔で通り過ぎる「少年」へと成長していた。

家に帰ると、父も会社から帰っていた。

私は伯母の家に自転車で御遣いに行ったことを話すと

父は私の「傷のこと」には触れず  

  父 :「よく頑張ったな。えらいぞ~」 と、私の頭を優しくなでてくれた。

しょうらく:「でも転んでケガしちゃって…」

  父 :「いいんだよ。『傷は男の勲章』みたいなもんだから」

父もそれ以上のことは言わず、ただただ私の「成長」を喜んでくれた。

  母 :「さあ!今日はお前の大好物ばかり作ったから、たくさん食べてね!」

しょうらく:「うん!ありがとう!」

それから5年後、新しい道路が作られ、鉄塔へ通ずる道を通ることはなくなった。

今思えば、あの鉄塔が私を強く大きくしてくれたように感じてやまない。

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