今回も【実録】介護の本質chから引き続き
施設や事業所に蔓延する2つの「毒」 というタイトルでお送りします。
今回は「中編」。
施設や事業所に蔓延する「もう一つの毒」についてです。
今回のお話の中では、介護職員さんに直接被害が及んでいる事案は少ないんですが、間接的には影響が大きいものがあるので、ぜひご覧ください。
ハローワークで取得できる求人票や転職情報誌、ネット広告をみると、介護職に関する求人の多さにあらためて驚きます。それだけ需要が高いんですよね…
それに伴って「介護の仕事をやってみようか」という人も多くあり、見た目的にはバランスが取れているように見えるんですが、実情は「人材不足」…
介護職員さんの人材不足の背景には、前回お伝えした内容に沿っていうと
正しいことを言っていても、キャリアや若さを理由に潰される仕組みによって、新しい風を入れることを拒み、業務内容の改善に背を向け、右へ倣えという空気を惜しげもなく醸し出し、事なかれ主義を決め込んでいること が挙げられます。
そんな中、介護職員の不足により、しわ寄せが及ぶのが「専門職」と呼ばれる人たち。
特にケアマネージャーや生活相談員などにおいては「介護福祉士」などの国家資格を有している人が多く、施設においては「格好のターゲット」になります。
ここまでお話すると、「もう一つの毒」の正体が分かりそうですね。
察しの良い人であれば、もう分かったかもしれません。
今回は、さらに詳しく実情をお伝えしながら、皆さんと一緒に考えていきますので、どうぞ最後までご覧ください。
施設や事業所に蔓延する毒:「拡大解釈された付帯業務」とは?
タイトルにもあるように、施設や事業所に蔓延するもう一つの毒とは
施設や事業所の勝手都合に合わせて拡大解釈された付帯業務 です。
付帯業務って、皆さん聞いたことありますか?
あまり耳なじみのない言葉ですよね。
簡単に言うと
自分の仕事に対して、付け加えられる業務
ということになります。
付随業務という言葉もあるんですが、何が違うかを大まかに言うと
- 付随業務は「有資格者において発生するもの」
- 付帯業務は「あくまでも仕事の内容に紐付けされたもの」
ということ。
この2つの業務については、ちょっと聞いただけではよく似ていますが、決定的な違いがあるんです。
それは 「それぞれの職種の権利を越えるか越えないか」 です。
実例を挙げれば
- ケアマネージャーのマネジメントやケアプラン作成を、介護職員が行う
- 看護師の投薬管理の仕事を、栄養士が行う
- ヘルパーの在宅での身体介護を、事務職員が行う
まだまだあるんですけど、よく見受けられるこの3つについて考えてみましょう。
皆さん、この3つのことについて、
付帯業務として行えるものって、あると思いますか?
パッと見た感じ、どれも「できなさそう」に感じますよね。
しかしながら、実際の施設や事業所での仕事において、これらはすべて行われています。
質が悪いところは「専門職の意思を聴かず、できる出来ないの如何を問わず」させています。
労働局の担当者と話をした際においても「明らかに逸脱している」と語られたこれらの内容。
具体的に話していきますね。
ケアマネージャーのマネジメントやケアプラン作成などを、介護職員が行う
施設入居者やサービス利用者のケアマネジメントやケアプランを作る人。
原則としてケアマネージャーだけだということは、皆さんご存知だと思います。
しかしながら施設においては、併設しているデイサービスや短期入所を利用されている方々のマネジメントやプラン作成は「介護福祉士資格を有するもの」であれば誰でもできます。
実際に私が着任した奈良市内のとある施設では、マネジメントやケアプラン作成の時間が空いたりした場合「見守り」と称してユニットに行かせ、介護職員の休憩時間を確保することに遣われます
(他にすることがあるのにです)
また、介護職員さんの早出出勤や遅出出勤者がいない場合、
その時間帯にケアマネージャーや生活相談員、ひいては看護師なども来させて介護業務をさせていました。
その他にも、ケアマネジャーには
- デイサービスの送迎業務(ピンチヒッターではなく「常時」)
- 入浴・排せつなどの日常介護
- 宿直ではなく、介護職員と同様の夜勤 など、実際の介護業務をさせています。
ケアプランについては、ひどいところでは介護福祉士(介護職員)が作成したケアプランの作成者欄をケアマネージャーの名前にして署名捺印をもらい、交付している施設もあります。
看護師の投薬管理の仕事を、栄養士が行う
これも施設においての話ですが
入居者の健康状態が不安定な状況下で、看護師が行う業務が肥大化。
嘱託医(施設などから頼まれて診察を行うお医者さん)の回診などで処方されてくる、入居者の内服薬の管理が進まないといったことが往々にしてあります。
一包化されてはいますが、数十名の入居者の薬。しかも高齢者であれば量がハンパなく多いんです…
選別やホチキス止めや「朝・昼・夕・寝る前」といった分別などには、かなりの時間を要することになります。
そのような状況で、同じ医療部門である栄養士が、その薬のホチキス止めや分別などを行っています。
ヘルパーの在宅での身体介護を、事務職員が行う
介護職員初任者研修修了(旧:ヘルパー2級)の資格を持っている事務職員が、ヘルパーが利用者の希望する時間に訪問できない場合、「ヘルプのヘルプ」として活動に向かい、入浴介助などの身体介護を行い、それを常態化させています。
これらのことがすべて実際に行われていますし、実際に私もさせられていました。
おそらく47都道府県において、かなりの数の施設や事業所が該当する内容だと考えます。
ではなぜ、そのようなことができるのか。
ここで登場するのが 拡大解釈された付帯業務なんです。
施設や事業所に蔓延する毒:付帯業務が拡大解釈される驚愕の背景
では、こういった「付帯業務が拡大解釈される背景」には何かあるのか。
ここからは、実際に私が言われたことやその場に居合わせて直に耳にしたことをお伝えします。
ケアマネージャーが職種の権利を越えて介護職員の仕事を行う背景
介護福祉士を有しているケアマネージャーだから、介護全般のことが行えて当然。
「介護職員の人員も不足しているし、コンパクトな施設運営をしないと」 「業務を円滑に回すという意味合いで、何でもケアマネジャーにさせたらいい」
栄養士が職種の権利を越えて看護師の仕事をする背景
薬の分別やホチキス止めなんて、在宅では家族もやっていること。
「ご飯の栄養管理だけしか仕事がない栄養士は暇なんだから、そんな手伝いくらいさせても問題はない」
「薬の効用や副作用の有無などを、栄養面からも管理することが重要なのでは?」
という言い分で行わせる。
事務職員が職種の権利を越えてヘルパーの仕事をする背景
事務なんて、パソコンと電話番ができればいいんだから誰でもできること。
そんなことより、資格持ってるんだし組織人だから、協力して然るべき。
「座ってばかりで、椅子の座面を温めてるだけなら活動に出て稼いだらいい」
赤字下線部分にあたるところが「拡大解釈」であり
実際にそれがまかり通っているのが現状です。
※テキストの部分は、施設の管理者や事業所長が実際に話していたことです。
にわかに信じられないかもしれませんけど、これらはすべて「実話」です。
それぞれが、それぞれの資格や業務においてプライドを持っています。
お互いがお互いの仕事に対してリスペクトするからこそ
その職域を超えるようなことはしない。
すべての職種が様々な問題を抱えながら
時間の制約の中で懸命に取り組んでいるんです。
- 「介護の経験があって、何事においても熟知しているから」
- 「分野のくくりは同じだから、やらせたって大丈夫」
- 「困っていたら、協力するのが人の道」 なんて
こちらの実情などを何も分からず
きれいごとばかりを並べ立てられたとしたら
迷惑以外の何物でもありません。
「連携」、「協働」という言葉の意味を捻じ曲げ、専門職としてのプライドを傷つけられると言った、いわば、人んちの敷居に土足で踏入るような真似を、自分たちの勝手都合で行わせることなど言語道断です。
しかしながら、こういったことが蔓延している原因は何も「人員不足」だけの話ではありません。
もっと奥深い闇があるんです…
まとめ
今回のお話をまとめます。
- 施設(事業所)に蔓延するもう一つの毒とは、拡大解釈された付帯業務である
- 拡大解釈する管理者や事業所長の本音(実例や実話を挙げて、お話しました)
- それぞれがプライドを持って仕事をしているのに、土足で踏入るような真似を平気でさせることなど言語道断である
以上の3点について、お話して来ました。
次回「後編」では、最後にお伝えした「闇」の部分についてと
これらを改善して行くための方法についてお話してまいります。
次回もどうぞ、ご覧ください。
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