【実録】介護の本質chからは3回に亘って
介護の本質をしっかりと押さえた介護技術についてお伝えしています。
このシリーズのねらい
世間一般にもよく知られている3大介護(排せつ介助・入浴介助・食事介助)について、介護未経験の人から介護福祉士の資格取得を目標としている人まで幅広く「自己研鑽」を行える意味合いから、本質を押さえた介護技術を、現役介護福祉士の筆者が分かりやすくお伝えします。
これまでにお伝えした内容はコチラです。
振り返りの意味合いで、ぜひご覧ください。
今回は最終章。
【介護の基本】「食事介助」の本質をしっかり押さえた介護技術
実をいうと3大介護と呼ばれるものの中で1番神経を遣うのが「食事介助」なのです。
どうしてかって?
1つの間違いが、すぐに命に直結してしまうものだからです。
この食事介助においては「無資格」であればそうでもないのですが
資格(介護福祉士、初任者研修修了者、実務研修修了者など)を持っている人の場合は、たとえ直接介護することが「未経験」であっても依頼されることがあります。
理由は一貫していて「勉強して資格を持っているんだからできるだろう」です。
このことは、これまでにお伝えした2つの介助方法についての
筆者が懸念している内容とリンクします。
それは何か?
「~だろう」であり「理論が先行する考え方」です。
食事介助において、この考え方で介助をすることは最も危険であり
未経験だったからといっても、介助する人の責任問題にまで発展してしまいます。
ですが、これからお伝えする内容をしっかりと覚えてくことで
そのリスクを回避することはできますので、安心してください(^-^)
お伝えする内容は、この5つです。
- ●食事介助の目的は単に「ご飯を食べさせること」ではありません!
- ●食事介助において気をつけること
- ●テキストなどには載っていない!食事介助のコツ&ポイントとは?
- ●食事介助のアフターケア。歯磨き、うがい。もう1つ必要なこと
- ●食事介助の際の「姿勢」は大事って本当?!
このことをしっかりと押さえておくことで、お互いに安心と安全の下での介護ができるようになりますので、どうぞ最後までご覧ください。
それでは始めていきましょう!
食事介助の目的は単に「ご飯を食べさせること」ではありません!
食事介助の目的といえば、誰もが「自分でご飯が食べられない人に、ご飯を食べさせること」というでしょうし、そう思われている人が多いのではないでしょうか。
確かにその通りなのですが、こういった人の場合はどうでしょう?
「ご飯を食べたくない人」
ご飯を食べたいと思っても、自分ではなかなか上手く食べられない場合は、考え方として合っていますし、実際にお手伝いをする必要があれば介助しますよね。
しかし「食べたくない人」においては?
食事をする前の段階になりますよね。
温かいものは温かいうちに、冷たいものは冷たいうちに食べてもらいたい。
そう思っても「食べたくない」という人に
無理に食べてもらったり食べさせたりすると何が起こるか。
吐き出してしまったり、喉を詰まらせてしまったりなどの事故につながります…
では、どうしたらいいのか?
食べたくない要因を探す です。
「食べたくない」といった人の言葉の意味、顔色、表情やしぐさなどをしっかりと観察して、その要因を考えることが必要になります。
- ●体調が優れない
- ●悩みや不安に苛まれている
- ●まだそんなにお腹が空いていない
- ●気まぐれ など
様々な要因が浮かんでくるでしょう。
介助を必要とする人と目線を合わせて、その人が訴えかけるサインを見極めながら
その要因を取り除いていく。
そして、その人の気持ちが食事に向くようになったら
初めて食事を食べるお手伝いをする。
時間がかかるかもしれませんが
このことは、日々の食事において極めて重要なことです。
どうしてか?
お互いの関係性を強くするために必要なことだからです。
その人の時間の流れに乗っかり、気持ちを確かめ合うこと。
それは「食事を楽しむための雰囲気作り」へとつながっていきます。
人が生まれてから亡くなるまでに
延べ100,000食の食事を摂ることになります。
日々、当たり前のようにしている食事であっても
その食事のすべてが「思い出の味になっている」と考えたらどうでしょう。
「何を食べたか」だけではなく「誰と食べたか」も重要なことになると思いませんか?
例えば、施設においての話です。
介護職員さんと入居高齢者との会話の一部をご覧ください。
介護職員:「今日のメニューは、確か大好物でしたよね。少し味を見ていただけますか?」 介護職員:「お味はいかがですか?」 入居高齢者:「とてもおいしいわ」 介護職員:「おいしい?それは良かったぁ。ゆっくり召し上がってくださいね」 介護職員:「○○さん、得意料理は何でしたか?」 入居高齢者:「このお料理よ。子どもがおいしいって言うもんだから、よく作ったわ」 介護職員:「お子さんが『おいしい!』って言ってくれた、思い出の味なんですね」 など。
会話を弾ませながらの食事って、気持ちがウキウキして来ますよね(#^^#)
反対に、仏頂面で物言わずの人から食べ物が運ばれて来るのを口に入れるって…
いくら食べ物がおいしくても雰囲気は最悪…(>_<)
次第においしかったと思っていた食事もおいしくなくなってきますし
何より「時間を無駄にされた」という思いが、その人に残ってしまうのではないでしょうか。
「たかが1食、されど1食」です。
愉しい時間を共有することで、心の距離も近くなり
安心して介助を受けてくださるようになります。
食事介助の際に気をつけること
食事介助の際に気をつけることは、大きく分けて6つです。
(個人差はありますけど、概ねこの6つを知っておけば大丈夫!)
ただし、この章で記載されている内容は「学校やテキストでも学べること」です。
あくまでも「おさらい」として流し読みしてもらっても大丈夫ですが
次の章へとつながっていく内容になりますので、ぜひご覧ください。
食べ物の形態(柔らかい・硬い、冷たい・温かいなど)
食べることのモチベーションを上げるのも下げるのも、一番の要因はコレ。
料理は何においても「程良さ」というものがあると筆者は考えます。
食べやすい温度、大きさ、硬さ、柔らかさ。どれを取っても大切な要素ですよね。
「硬すぎるかぼちゃの煮物」、「大きすぎる肉だんご」、「熱すぎるお味噌汁」…
想像しただけで食べるのを考えちゃいますよね…(+_+)
おいしく食べていただくためには、気を配るべきことではないでしょうか。
食べるために必要な用具(箸・スプーン・湯のみ・コップなど)
慣れ親しんだものを使って食事を食べていただくことは
「習慣」という意味でも大切なことだと考えます。
いろんな思い出話なんかで会話が弾むきっかけにもなりますしね。
ただ、介助を受ける人の状態によっては、箸を使う人であってもスプーンの方が良い場合や、湯のみでお茶などを飲んでいる人であってもコップの方がいい場合などあるので、普段と少しでも体調が悪いと感じたら、安全の意味で選んでくださいね。
姿勢(身体が反り返っていないか、左右に傾いていないかなど)
そっくり返った状態や、身体が傾いた状態で食事をするのはものすごく怖いです。
なぜなら場合によっては、気管に食べ物を詰まらせてしまうからです。
姿勢に関することは、後でゆっくりとお話しますが、
『どんな姿勢で食べてもらえば安全なのか』を、よーく考えてみてくださいね(^^)
一度に食べる量の加減
コレ。
介助の時に一番気をつけないといけないことです。
わんこそばのお給仕さんを想像してみてください。
「はい。じゃ~んじゃん!」、「はい。ど~んどん!」って感じで
食べればすぐさまポンポンとそばをお椀へ入れていきますよね。
それを「そばをお椀へ」ではなく
「食べ物を介助を受ける人の口の中へ」してしまうと何が起こるか…
想像しただけでも恐ろしいですよね(><;)
口の中には許容量(キャパシティー)がありますし、食べる速度も人によって違うので、
食べていただく量の加減には気を配ってくださいね(^^)
そして、介助の時には落ち着いて、ゆっくりと確実に!
モグモグ(そしゃく)やゴックン(えんげ)の状態の確認
歳を取るとみんな、食べ物を噛み砕く力や飲み込む力は衰えていきます…
でも、そのことをあまり深く考えていない人が結構多く、特に認知症症状のある人に多いんですが、早く食べたいという一心で、中途半端にモグモグしてゴックンしてしまい、息が出来なくなってしまう事故が多いです。
介助していると、急かされることもあると思いますが
「モグモグ」、「ゴックン」は、しっかりと確認してくださいね(^^)
口の中の状態の確認(食べにくい要素はないかなど)
食事介助している時、介助を受ける人があまり食が進まず、食べにくそうにしている場合。
『食欲ないのかなぁ…』
『おいしくないのかなぁ…』 あれこれ気になりますよね…
そんな時は、その人にお話して、口の中の様子を見せてもらいましょう!
食べ物が歯のすきまに詰まっていたり、まだゴックンしていなかったり
口内炎ができていたりなどあったら、そりゃあ食べにくいですよね…
不安なく、楽しく食事をしていただくために
介護を受ける人の口の中の様子は、しっかりと観察しておいてくださいねd(^^)
テキストなどには載っていない食事介助のコツ&ポイントとは?
では、ここからは
「テキストなどには載っていない」食事介助のコツ&ポイントについてお伝えします。
まず、コツについてですが、たった1つ。
自分の主観や考え方の常識は、一旦脇に置く(主導権は介助を受ける人)
詳しく解説していきますねd(^^)
「自分の主観や考え方の常識は、一旦脇に置く」の真意とは?
先程の「食事介助の際に気をつけること」でお伝えした内容を
あなたはどのように思われましたか?
『別に介護の本にも書いてあるし、見ながらやれば簡単!余裕でできる!』と、私が前置きしたにもかかわらず、あらためて認識を深めてしまってはいないでしょうね?
この段階でそう思っているあなた。
大きな勘違いをしています。
もしも仮にテキストに書いていることだけをしていていいのであれば
筆者がわざわざここであらためてお伝えする必要はありませんし
介護や福祉の学校、専門教材を扱う会社に任せておけばいいだけのこと。
ではなぜ、筆者が【介護の基本】としてここでお伝えしているのか?
そこですら「真の基本を勘違いしている」からです。
このことは前回お伝えした「技術より想いを先に」に起因しています。
技術だけを先走りして覚えるから「慢心」が生じ、勘違いを生む。
そう考えながら、以降の内容をしっかりと覚えていくと良いでしょう。
勘違いが生まれる最大の要因は「気持ちの立ち位置」です。
どういうことなのか。
お家においても施設においても
生活全般においての主導権は「介助を受ける人」にあります。
介助をする方にはありません。
仮にその立ち位置で介助したを場合
主導権は「介助をする人」にあることは明白です。
『声掛けして、口を開けてもらって、スプーン一杯すくったご飯を口に入れて、モグモグしているのを尻目に、さっさと次をすくって…』
これでは、介助を受ける人は気持ちが忙しくてたまりませんし
誤って気管やのどに食べ物を詰まらせてしまう可能性だってあります。
介助する人自身のペースで介助をしていれば、そりゃあ簡単なことなのかもしれません。
「誰にでもできる」という考え方はそこから来ているのでしょう。
しかしながら、それが大きな勘違いなのです。
これまでの経験則や生活環境などは、人それぞれ違いますよね。
ということは、それぞれが過ごしている時間軸も違うということになります。
これまでに過ごしてきた時間軸の中で培われたあなたの常識は 他の人にとっても「同じ」なのでしょうか?
食事介助を例にとると、あなたが1回に食べることのできる量は
介助を受ける人も同じ量を食べられるということになりますか?
食べている最中に、どんどん次の食べ物を用意することが
あなたにとって普通ならば、介助を受ける人も同じですか?
違いますよね(^^)
「介護の常識は、世間の非常識」という言葉がありますが
このことが、まさにそうなのです。
そう考えると、介助を受ける人の常識に合わせることが必要になってきます。
何事においてもそうですが、介助をする場合
食事介助は特にです。
「自分の主観や考え方の常識は、一旦脇に置く」ことを忘れないでください。
このことは、楽しいはずの食事において介助を受ける人を危険に晒すことなく
個々に応じた食事介助を安心と安全の下で行うようになれるコツです。
そうすることで
「この人が今、何を思っているのか」
「ゆっくりと味わってもらった方がいいかもしれない」 など
介助を受ける側の視点で食事介助ができるようになっていき
あなたの気持ちの中にも余裕が生まれて来るはずです(^^)
そうなったら、食事介助が安心と安全の下で自然と行えるようになります。
食事介助のポイントは、会話頻度を観ること?!その真意とは
次に、食事介助のポイントについてですが、これもたった1つ。
介助を受ける人がよく喋るかどうかを確認する です。
介助の際に気になるのが「介護者のモグモグやゴックンの状態」です。
モグモグしているように見えても実際にはしていない
飲み込んでいるように感じても口の中に残っている などはあります。
パッと見た感じで判断するのはなかなか難しいとは思いますが
ゴックンする力(嚥下力)があるかないかは、判断の目安があります。
それは何なのか?
基本的によくお喋りをする人については
ゴックンする力(嚥下力)について不安はありません。
どうしてか?
会話をすることで、自分で呼吸などを整えることができているからです。
あくまでも目安なので、当てはまらない人もいるかもしれませんが
概ね外れではありませんので、頭の片隅にでも入れておくと良いでしょう。
日々接している中で、介助を受ける人の会話が減って来たら要注意です。
しっかりとコミュニケーションを取り、会話が減った要因を探して、取り除いていくことが大切になって来ますので、押さえておいてくださいd(^^)
食事介助のアフターケア。歯磨き、うがい。もう1つ必要なこと
食事が終わって、介助も終わり
ではありません。
介助後のアフターケアが大切です。
アフターケアといえば
口の中に食べかすなどが残っていないかの確認
歯磨きや口をゆすぐ などは察しが付くとは思います。
確かにそれも必要なことですが、それだけでは不十分。
あと1つ、必要なことがあるんです。
結論をいうと「余韻を残すこと」です。
私たちにも「思い出の味」というものがありますよね。
「母親が作ってくれた肉じゃが」
「百貨店の屋上レストランで食べたハンバーグ」など、いろいろあるでしょう。
単純に「肉じゃが」「ハンバーグ」ともいえますが
筆者があえてこう書いたのは理由があります。
それは先程もお伝えした
「何を食べたか」だけではなく
「誰と食べたか」があることで「思い出の味」になる
と、筆者は考えるからです。
例としては、
ごちそうさまでした!今日の肉じゃが、おいしかったですね。
「肉じゃがは、お母さんが子どもの頃によく作ってくれた」と仰っていましたね。
お母さんの味に近かったですか?
次はどんなメニューなんでしょうね。
お好みの味が出てくるといいですね(^0^)
といった感じの声かけをすると
介助を受ける人は、食べた肉じゃがは「お母さん」とともに「介助したあなた」を含めた「思い出の味」になって、次の献立への期待に胸を膨らませながら、微笑みを返されることでしょう。
食事介助の際の「姿勢」は大事って本当?!
「食事介助の際に気をつけること」の中にもありましたが
「食事介助の姿勢」については極めて重要なポイントです。
結論からいうと「本当」です。
2つの視点からお話していきます。
介助を受ける側からの視点
よく見かける光景として、座る姿勢が悪く、すぐに椅子からずり落ちてしまう人について、
車椅子や椅子の座面の手前ギリギリにお尻が乗っかっているだけの状態で座っている場合。
身体は反り返った状態で、今にもずり落ちてしまいそうな勢い…(仙骨座りと言います)
このままの状態で食事介助をすると何が起こるか。
誤嚥(ごえん)です。
「誤嚥性肺炎」という病名をよく耳にすると思いますが
介護者本人のゴックンする力(嚥下力)の低下以外の最たる要因は
食事の時の姿勢の悪さになります。
それを防ぐためのポイントは
しっかりと座面深くに座っていただき
介助を受ける人の顎を引いた状態で食事介助を行うことです。
介助をする側からの視点
食事介助をする際に、介護者の真横に座って
目線を上から見る形で介助をするやり方をしている人が、たまに介護の現場にいます。
マヒなどの障害に応じて介助をする方法としてはアリな部分なんですが
通常であれば、これは「いつ事故が起こってもおかしくない介助方法」です。
ベターである介助方法としては、こんな感じです。
- 介助をする人も姿勢を正して座り
- 介助を受ける人と目線を合わせる形で
- 介助を受ける人の左右斜め前もしくは正面で向き合い
- 状態に応じた程良い量を舌に乗せる形で食事を介助する
になります。
これは、どちらかの姿勢が悪くてもリスクは高いです。
そして、あまりに介助が長時間になると疲れてきますので
座っていることがしんどくなって、お互いの姿勢も悪くなります。
気をつけてくださいねd(^^)
まとめ
【介護の基本】「食事介助」の本質をしっかり押さえた介護技術
と題してお送りした今回を含め、介護についての「真の基本」や介助についての「本質」をしっかり押さえた介護技術を3回に亘ってお伝えしました。
総じていえば介護技術というのは、何度も実践すれば自然にできるものではありますが
私が強調したいのは「技術の向上」よりも、もっと根本的な「人としてのあり方」の方。
大切なのは「意識の持続性」と「継続性」です。
それは介護に留まらず、日常生活においても同じことがいえるのではないでしょうか。
人と人が織り成す人間模様。
それを最も間近に感じることができるのが介護の仕事だと筆者は考えます。
これまでにお伝えした内容が、介護をする上での1つの力添えになることを願っています。
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