高齢者介護の本質に背を向ける社会~本来の介護支援のあり方とは

【実録】介護の本質

【実録】介護の本質chよりお送りする今回は

「高齢者介護の本質に背を向ける社会~本来の介護支援のあり方とは」

介護保険制度の基本理念は「高齢者の自立支援」

平たくいえば「おじいちゃん・おばあちゃんが自分で自分のことができるようにお手伝いする」になります。

在宅、施設を問わず、介護や福祉に携わる多くの人たちが、この理念に則って様々な介護支援サービスや支援活動を行っていますが、今の世の中においてはこの「基本理念」に疑問を抱く人たちが増えてきているように私は感じています。

それは

「高齢者の自立支援」が「本来の介護支援のあり方」からは掛け離れた理念であると、誰もが気づき始めたからではないか。

というのが私の見解です。

どういうことなのか?

あるエピソードから紐解いていきたいと考えます。


まずは、私が以前に従事していた施設で過ごしていた入居者様の「ひとコマ」から、皆さんにご覧いただきます。

※これより登場する人物名はすべて「仮名」

※入居者様の敬称については、親しみを込めて「~さん」でご紹介していきますね


施設でお過ごしいただいている須川さん「100歳」のお誕生日を迎えられ、介護リーダーの田中さん介護職員の中西さん生活相談員の菱川さんと私とで施設長にお願いし、ささやかながら「プレゼント」と「誕生日ケーキ」を用意することになりました。


そんな中、4人の共通した意見として「ご家族の方々も、一緒にお祝いを!」と言うことで、菱川相談員が須川さんの娘さんお孫さんに連絡を入れ、当日お越しいただけることになったんです。


当日、須川さんの娘さんとお孫さんが施設へお越しになり、須川さんが生活なさっておられるユニットへ。プレゼントと誕生日ケーキの準備も整い、同じユニットで生活をなさっておられる入居者の方々を「会場」へ。

田中介護リーダー
田中介護リーダー

しょうらくさんは

フロアで見守りをしていてください。

私はフロアの一番「上座」で、娘さんとお孫さんに寄り添われながら談笑されている須川さんにお声をかけました。


しょうらく
しょうらく

須川さん、お誕生日おめでとうございます。

ご家族様も、この度は誠におめでとうございます。

須川さんの娘
須川さんの娘

ありがとうございます。

本日はお招きいただき、大変うれしく思っています。

須川さん
須川さん

ありがとう。

須川さんの孫
須川さんの孫

施設で何かと気にかけてくださっているようで

おばあちゃん、とっても元気ですね。

しょうらく
しょうらく

最近はよく食事も召し上がられるようになって

私も嬉しく思っているんです。

これからも健康に気をつけながら

お過ごしいただけるよう努めてまいります。

そんな会話をしていると、フロアのテーブルでお待ちの女性の認知症症状のあるお年寄り・野田さんが、須川さんを指差しながら、

野田さん
野田さん

ちょっと、お兄さん。

あの方、お誕生日なの?

しょうらく
しょうらく

そうですよ。

今日で100歳になられたんですよ。


そう話すと、今度はテーブルの反対側に座っておられた、女性の認知症症状のあるお年寄り・久保田さんが、突然大きな声で、

久保田さん
久保田さん

100歳!100歳!

100歳!100歳!

と・・・(^-^;)

さらにその会話が、これまた隣に座っておられた87歳の女性の認知症症状のあるお年寄り・庄司さんに聞こえたようでした。

庄司さんは困惑した様子で、


庄司さん
庄司さん

私…100歳?

と・・・( ̄▽ ̄;)

野田さん
野田さん

へぇ~!あなたも100歳なの?

庄司さん
庄司さん

知らん…

久保田さん
久保田さん

100歳!100歳!

100歳!100歳!

そんな会話がひとしきり続いた後、少しの沈黙があってすぐにまた…

野田さん
野田さん

ちょっと、お兄さん。

あの方、お誕生日なの?

しょうらく
しょうらく

ありゃまあ。

また戻っちゃいましたね~。

私が思わず野田さんの言葉にツッコんでしまったことで、フロアにおられた入居者様は大爆笑(^O^)

須川さんの娘さんとお孫さん、介護リーダーの田中さん、介護職員の中西さん、そして菱川相談員までもがその会話に爆笑しながらフロアへ。

田中介護リーダー
田中介護リーダー

しょうらくさん

笑わせないでよ~

紅茶がこぼれちゃうからさぁ~

中西介護士
中西介護士

私も

ケーキを切り損ねそうに

なりましたよ。

菱川相談員
菱川相談員

ぶわっはっはっは。

しょうらく
しょうらく

すみません。

時間をつなごうと

一所懸命だったもので…

須川さんの娘
須川さんの娘

いつもこんなに

賑やかなんですか?

田中介護リーダー
田中介護リーダー

そうですね。

いつもこのユニットでは

このお三人様がムードメーカーになって

皆さん楽しく賑やかに過ごしていただけてますね。

須川さんの孫
須川さんの孫

だから

おばあちゃん

いつ来てもニコニコ

してるんだね。


 


エピソードは、ここまでになります。

ご覧いただいて、あなたは何を感じますか?

多くの方々は「家族の方々にとって、元気に楽しく過ごしているおばあちゃんやおじいちゃんの顔を見ることは、何よりの安心につながる」と感じているでしょう。

確かにそうです。

楽しそうに笑う声や元気で過ごしている姿から、施設での暮らしを想像し、安心して介護を委ねておけると家族様に思っていただけることは重要なことです。

入居者様1人1人が日々の暮らしの中で精一杯の「今」「楽しく」「自分らしく」「穏やかに」過ごして行くことこそが「生活の場」たる施設において一番大切なこと…

それを叶えるためにスタッフは懸命に取り組んでいるんです。

しかし、考えてもらいたいのはその「裏側」です。

認知症症状があってもなくても高齢者はなかなかの「役者」です。

「心配させてはいけない」との思いを前面に出して、本当の思いを締まってしまう…

その思いに気づけない家族様がいることも事実としてあるんです。

エピソードにあったような家族様は、現実からすれば「稀」な方々です。

ほとんどの場合は面会すら来ませんし、病気やケガなどでの連絡においても「そんなことでいちいち電話して来ないでください」と仰る家族様が少なからずいるんです。

先程お伝えしたように、介護保険制度の基本理念は「高齢者の自立支援」です。

ですが、施設で暮らす高齢者の多くは、ある意味「自立を望まなくなった人たち」なのではないでしょうかこれは在宅で暮らす高齢者にも同じことが言えます

ここに「高齢者介護の本質」があると私は考えます。

もちろん「介護など受けずに自分でできることを続けていきたい」と考えている高齢者もおられ、その方々を支援することは必要ですが、高齢者の大多数「今の自分のあるがままを受け入れて、穏やかな余生を過ごしたい」と願っておられます。

ということは、現行の介護保険制度において考えなければいけないのは「サービス」ではなく「リアルな心の状態像を知ること」の方であり「生きることを拒まない暮らし」になるのではないでしょうか。

基本理念に縛られて、やみくもに「自立、自立」と声高に叫び、その名の下に介護従事者などに「本人が望まないサービス」を提供させ「国が決めたルールだから」と高齢者の尻を叩く…

このことを高齢者介護の本質に背を向ける社会」といい、今、目の前に広がる社会だと私は考えます。

  • 「日々穏やかに暮らせればそれでいい」
  • 「家に帰ると迷惑かけるから、私はこのままでいい」
  • 「わざわざ会いに来てくれなくても、息子らの生活を一番に考えてくれたらいい」

こんな思いで過ごしている高齢者が、施設にはたくさん居られることを知ってもらいたい。

その胸の内を知り、葛藤しながらも支援を続けるスタッフの思いを知ってもらいたい。

「何事においてもカネさえ払えばいい」という考えが常態化している現代社会において、今一番しなければならない「自立支援」自立しなければいけないのは、高齢者ではなく「あなたを含めた私たち1人1人の意識」の方なのではないでしょうか?

介護職「総合職」であり、高齢者と家族との関係性を最前線で感じ取る職種であるとするならば、専門職たる「看護師」「(管理)栄養士」「生活相談員(支援相談員)」「介護支援専門員」らにおいては、「めざす介護」と「背を向けている社会」との狭間で苦しむ人々のために「今、何をすべきか」を考え、建設的な議論をしながら取り組んでいかなければならないのではないでしょうか。

高齢者が本当に望んでいるのは「昨日と同じ今日」であり「今日と同じ明日」

支え合いながら、助け合いながら、心穏やかな日々を過ごしていくこと。だと私は考えます。

本当の意味での支援が行き届いた未来には、介護保険制度というものは存在しておらず、誰もが不安少なく笑顔の多い日常で溢れる社会になっていると、私は確信します。

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