新年を迎えた1月上旬の頃は、極端なくらいの寒さや空気の乾燥が激しく
施設においても体調を崩すお年寄りが多くおられるんです…
食欲のない人への「食べ易い食材」の提供や
嚥下状態が良くない人への「とろみ剤を入れた水分」の補給
容体の急変に伴う病院への受診送迎 など
介護職員さんを始めとする各専門職においても、それぞれが慌ただしく支援を行っています。
「何をおいても健康であることが一番」であり
「健康であるからこそ、笑顔も輝く」と信じて、日々の介護に奮闘する介護士さんの姿には
「介護とは誰にでもできるような仕事ではない」ことを実感させてくれます。
【実録】介護の本質ch。今回は【介護/ちょっといい話】と題して
筆者が以前に支援活動を行っていた施設での
職員さんとお年寄りとの「関わり」についての「実話・エピソード」をご覧いただきます。
介護に携わっているからとかいないからとか
お年寄りと関わりがあるからないからではなくて
この記事を読むことで、ほんの少しではあっても「人の優しさやぬくもり」を感じてもらうことができたらと私は考えています。
【介護/ちょっといい話】幸せを呼ぶシェイクハンド
どうぞ最後までご覧ください!
第1章:ある朝、何気なく気づいた異変
ある寒い日の朝。
朝礼を終え、いつものようにデイサービスの送迎車を出迎えるため
施設の正面玄関前に立っていた私。
しばらくして1台の送迎車が正面玄関前に停車し
デイサービスを利用される皆さんが賑やかに降りて来られました。
「おはようございます」
「おはようございます。いつもお出迎え、ありがとう」
「おはようございます」 1人1人挨拶をして、デイフロアへ。
「あら!しょうらくさん、今日のネクタイ、とってもお似合いですよ」
「おはようございます」
「今日も元気をもらいに来ましたよ。よろしくお願いね」
それぞれのお年寄りと会話をする中、いつも笑顔でお越しになられるOさんが…
Oさん:「兄ちゃん…おはようさん」
今日は笑顔が引きつり、少々元気がない様子。
しょうらく:「おはようございます、Oさん。あれ?どうなさったんですか?」
Oさん:「実は2、3日前から右の肩が痛うてなぁ…ちょっとつらいわぁ~」
しょうらく:「確かに辛そうですね…お医者さんには行かれたんですか?」
Oさん:「昨日近くのかかりつけに行ったんだけど『湿布貼って様子をみましょう』と…」
しょうらく:「お大事になさってくださいね。利用中に何かございましたら遠慮なく」
Oさん:「ありがとう。いつも気にかけてくれるから、私も心丈夫です」
そんな会話をしながら施設の中へ。
すると事務所から、私とOさんの様子を観ていた管理栄養士の仲田さんが、声をかけてくれた。
仲 田:「Oさん、おはようございます。お辛そうですね…」
Oさん:「いつもありがとう。あなたの笑顔を観ていると、痛いのも飛んでっちゃいそうですよ」
仲 田:「お大事になさってくださいね」
そう言って、仲田さんはOさんの右手をそっと握り、左手でOさんの右肩を優しく撫でていた。
第2章:異変は現実に!その時私とスタッフは…
Oさんの様子を申し送り、何か変化があったら連絡を入れるようにと
デイスタッフに伝え、私はいつもの業務へ。
しばらくすると、デイフロアからスタッフの加納さんが私のところにやってきて…
加 納:「しょうらくさん!ちょっと来てもらえませんか?Oさんの右肩が…」
しょうらく:「加納さん、お疲れさま。Oさんの右肩がどうかしたの?」
朝のお出迎えの時のことが気になっていたこともあり
看護師さんに連絡し、加納さんと共に、急いで浴室へ向かう私。
ノックをして脱衣室に入ると、Oさんは浴室を出てすぐの椅子に腰かけておられました。
加納さんに訊くと、入浴後に湿布を貼ろうとしたら、湿布かぶれを起こしているらしく
湿布を貼っていた部分が赤くなっているので、状態を知らせに来たとのこと。
程なくして看護師さんも脱衣室に来られたので、状況を伝えました。
しょうらく:「これじゃあ、湿布が貼れませんね…」
看護師:「そうね…痛み止めの軟膏を塗ることにしましょうか」
加 納:「でもOさん、今日は湿布だけを持って来られているので、軟膏は…」
Oさん:「大丈夫ですよ。お風呂にゆっくりと浸かったから、痛いのはちょっとましです」
看護師:「じゃあ赤みが引いたら、施設の軟膏を塗ることにしましょう」
しょうらく:「それでいいですか?Oさん」
Oさん:「ありがとうございます。そうさせてもらいます」
すると、ちょうど通りかかった仲田さんが、その様子に気づいて声をかけてくれました。
仲 田:「Oさん!どうしたんですか?すごい肩が赤くなってますけど…」
しょうらく:「どうやら湿布かぶれを起こしたらしいんだよ」
仲 田:「まあ…。大丈夫ですか?Oさん」
Oさん:「大丈夫ですよ。痛いのはましですけど、今はちょっと痒いですけどね…」
Oさんの言葉に、仲田さんは朝と同じくOさんの右手を握り
左手でOさんの右肩を優しく撫でていました。
第3章:「笑顔にしたい」想いからの「おまじない」
昼食後、赤みが引いて来たとのことで、看護師さんがOさんの右肩に軟膏を塗ってくださいました。
その後は何事もなく時間が過ぎ、帰りの送迎時間。
見送りのため、私と仲田さんが正面玄関へ。
その時までに私と仲田さんは、Oさんに「あること」をしようと話し合っていました。
それは、ただただ「Oさんを笑顔にしたい」という想いからのもの…
笑顔満面で、賑やかに車に乗り込む利用者の皆さん。
その最後に、Oさんがやってきました。
しょうらく:「Oさん、どうぞお大事に。ひどくなったら皮膚科への受診もお願いします」
Oさん:「ありがとう。今日は心配ばっかりさせちゃいましたね。ごめんなさいね」
しょうらく:「明日もまた、元気に笑顔でお会いしましょう」
仲 田:「明日、肩の痛みが治っているように、しょうらくさんと考えた『おまじない』をさせていただきますね」
Oさん:「おまじない?」
私と仲田さんとが考えた「あること」とは
仲田さんがOさんに右手を握り、私が両手を添え、Nさんの左手でOさんの右肩を撫でること。
Oさん:「ありがとう。本当に私、ここに来れば笑顔になれるわ…」
しょうらく:「Oさん、泣いてちゃ笑顔になってませんよ」
仲 田:「明日また、笑顔でお会いしましょうね!」
Oさん:「はい。ありがとう」
Oさんも車に乗り込み、送迎車はそれぞれの帰宅先へ向かいました。
エピローグ:幸せを呼ぶシェイクハンド
次の日の朝、いつものように送迎車を出迎えに、私は正面玄関に。
するとそこに仲田さんがやってきました。
しょうらく:「あれ?今日は仲田さんもお出迎えかい?」
仲 田:「Oさんのことが気になって…」
しょうらく:「私もだよ。痛みが少しでも引いていてくれたらいいんだけどね」
送迎車がやってきます。
利用者の皆さんとの会話の中、Oさんが笑顔でお越しになられているのを見つけた私は、急いでOさんの下へ駆け寄りました。
しょうらく:「Oさん、おはようございます。肩の具合はいかがですか?」
Oさん:「兄ちゃん、おはよう!あら!今日はお姉ちゃんも一緒かい?」
仲 田:「おはようございます。どうですか?肩の具合」
Oさん:「おかげさまで、昨日あなたたちの『おまじない』が効いたんだねぇ~。全然痛くないし、痒くもないんだよ。それに昨日は家に帰ってから、嬉しいことがいっぱいあってね~」
仲 田:「そうですかぁ~。それは何よりでした」
Oさん:「んで、あなたたちに頼みがあるんだけどね~」
仲 田:「何でしょうか?」
Oさん:「握手してもらいたいんだよ、昨日みたいに。あなたたちと握手していると、何だか幸せな気持ちになれるんだよ」
私と仲田さんの何気ない心遣いでしたが
Oさんにとっては「幸せを呼ぶシェイクハンド」として
何よりも替え難い「元気の素」になっているようでした。
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