今回の【実録】介護の本質chからお伝えするのは
心に残る介護エピソード
~これ、おばあちゃんだよ!~
現役介護福祉士であり、主任ケアマネでもある筆者が
過去25年間で携わった介護、福祉、マネジメントなどの中から
特に「心に残るエピソード」を体験談としてお伝えする内容です。
今回は、平成22年の春。
筆者が市町村から依頼を受けた「介護保険要介護認定調査」でのエピソード。
訪問したお家から突如現れた女の子との出会いからお話は始まります。
この記事をご覧になって「人間とは何か?」、「生きるとは何か?」、そして「家族とは何か?」などを感じ取ってもらえると嬉しいです。
それではお伝えしていきますね。
第1章:初めて出会う人には興味津々!そんな私に依頼が…
平成22年春。
年度の始まりには決まって「要介護認定調査」の依頼が増えるので
周りのケアマネたちは少々お疲れ気味。
「自分の仕事もあるのに、調査ばっかり行ってられない」というのが本音のよう…
しかしながら「初めて出会う人には興味津々で、テンションが上がる」といった、ある意味特異な性格であった私には、この時期は嬉しくてたまりませんでした。
午前中の仕事を終えた私が、お昼ごはんまでの間に担当高齢者のケアプランをまとめていると、市役所に行っていた管理者が事業所に戻ってきました。
管理者:「しょうらくさん、これ。見てよ」
管理者の声に振り向くと、手には「要介護認定調査依頼書」が。
しかも1通ではなく5通…
しょうらく:「認定調査ですね。新規ですか?」
管理者 :「うちのサービスを利用している高齢者は、他の事業所のケアマネが調査に行くからね…。また頼めるか?」
しょうらく:「分かりましたけど、5名の方すべて私が?」
管理者 :「もちろん振り分けるが、実際うちのケアマネたちの中で、二つ返事でOKしてくれるのは、しょうらくさんしかいなくてね…」
しょうらく:「私は一向に構いませんよ。依頼する方が決まったら、書類をいただければ」
管理者 :「ありがとう。いつもすまないなぁ…」
しょうらく:「それは言わない約束でしょう?」
昭和のテイストがするような会話を交わした後、昼休憩の時間になり
私は管理者と共に食堂へと向かいました。
その日の夕方、私が調査に伺う高齢者が決まり、管理者から依頼が。
Tさんと仰る77歳の女性で、同席者は長男のお嫁さんとのこと。
訪問先に電話連絡を入れて、当日を迎えました。
第2章:突如現れた可愛い「同席者」
お約束の時間の5分ほど前に到着。
インターフォンを押すと「はい!Tです!!」と元気な声が。
しょうらく:「市の認定調査員、しょうらくと申しますが」
そう伝えて玄関先で待っていると、玄関の扉が勢いよく開いて、一人の女の子が飛び出して来た。
女の子 :「おじさん、ちょうさの人?」
しょうらく:「そうだよ。こんにちは。Tさんの身体の状態を調べに来たんだよ」
そんな会話をしていると、奥の方から調査に同席することになっているお嫁さんが出て来られ。
嫁 :「ちょっとCちゃん!何やってんのよ!調査員さんが入れないじゃないの!」
Cちゃん :「ねぇねぇおかあさん、このおじさん、おばあちゃんのからだのことをしらべるんだって!」
嫁 :「すみません。この子ったら、失礼なこと言いませんでしたか?」
しょうらく:「いえいえ。元気なお孫さんですね」
嫁 :「元気だけが取り柄なんです。おばあちゃんが大好きで、いつもおばあちゃんと一緒にいるもので、今日も『調査の人におばあちゃんのこと教えてあげるの!』って聞かなくて…」
しょうらく:「いいですよ。Cちゃんって言ったかな?おじさんにおばあちゃんのことを教えてくれるかい?」
Cちゃん :「いいよ!Cの知ってること、ぜ~んぶ教えてあげるぅ!!」
中へと通されると、和室でTさんが座っておられました。
簡単な自己紹介と、ご本人にお答えいただく内容から調査を進めていきます。
同席しているのは、お嫁さんとCちゃん。
私からTさんへの質問に「あのね、それはね」といって一所懸命教えてくれるCちゃん。
そして「Cちゃん!静かにしてなさい!」と、Cちゃんをたしなめるお嫁さん…
その光景を観ながら、終始笑顔で応えて下さるTさん。
『何と微笑ましい』 私はそう想いながら、該当項目にチェックを入れて行きました(^-^)
第3章:これ、おばあちゃんだよ!
調査の項目に従って、あまり時間をかけないようにしながら、Tさんの認定調査が進んでいきます。
「歩行」と言う項目の調査に差しかかった時、私の目に「気になるもの」が飛び込んできました。
それは、Tさんが座っておられる場所の右斜め上辺りのふすまに付いている「シミ」
そして柱に着いた無数の傷とスイッチ周りの「剥げ落ちた壁紙」
『何なんだろう?』 そう思った私は、お嫁さんに。
しょうらく:「あの~すみません。ちょっと気になることがあるのですが…」
嫁 :「はい、何でしょうか?」
私は率直に「シミ」や「剥げ落ちた壁紙」などについて伺うと
横に居たCちゃんが、ニコニコしながら私にこう言ったのです。
「おじさん!これ、おばあちゃんだよ!」
しょうらく:「おばあちゃん?!」
Cちゃん :「そう!これ、おばあちゃんなの」
Cちゃんの勢いに戸惑っていると、お嫁さんがこう話してくださいました。
嫁 :「Cのいう通り、確かにこれは義母なのです。というか、義母の作った『足跡』のようなもの。いつも同じ歩き方で、こうして壁伝いに手を付きながら歩いているのです。そうしたら、いつのまにかその部分だけが『シミ』になったり、剥げ落ちたりして…」
『だから「おばあちゃん」なのかぁ~』
Cちゃんの言葉に、私はTさんご家族の「支え合い、労り合い、温かく見守る姿」を垣間見た気がしました。
エピローグ
すべての調査が終わり、
しょうらく:「はい!これですべての調査が終わりました。Tさん、お時間を頂戴致しましてありがとうございました」とご挨拶。
嫁 :「どうぞよろしくお願いします」
Cちゃん :「おじさん、もうおわりなの?」
しょうらく:「ああ。Cちゃんのおかげで、とってもよく解ったよ。ありがとう」
そう言うと、Cちゃんは急に畏まって。
Cちゃん :「おばあちゃんを、よろしくおねがいします」と言って、ペコリと頭を下げました(^-^)
何とも言えない「温かさ」を感じた出来事でした。
まとめ
今回の「心に残るエピソード」は、ここまで。
今後も筆者の体験談を交えた「心に残る介護エピソード」をお伝えしていきますので、次回もどうぞご覧くださいね。
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