毎年1月の奈良では、恒例行事として「若草山焼き」が開催されます。
毎年やっているものなので、奈良市民や奈良県民においては「恒例行事」とはなっているのですが、奈良市民や奈良県民ですら「若草山焼きがどんなものなのか?」について知らないことが多くあるようです。
先日、若草山近隣に住む友人とランチを楽しんでいると、山焼きの話になったのですが、山焼きの起源や由来について知っているかを訊いたところ「ただ野焼きして新芽を出すのにやっているんじゃないの?」といった答えが…
この記事では、奈良市民や奈良県民ですら知らない「若草山焼きの本質」について、筆者が実際に奈良県庁・奈良公園室を訪れ、担当者に直接訊いた内容についてまとめています。
質問した内容は7つあります。
- 質問①:若草山焼きの起源ならびに山を焼くことになったきっかけは?
- 質問②:若草山焼きが正式行事として開かれたのは西暦何年から?
- 質問③:開催日程が固定された要因は何か?(なぜ1月第4週の土曜日なのか?)
- 質問④:これまでに山焼きが行われなかったのは何回くらいあるのか?
- 質問⑤:山焼きの時に、鹿は何処にいるのか?巻き込まれたりしないのか?
- 質問⑥:「荒天中止」とあるが、その「明確な基準」はあるのか?
- 質問⑦:焼け残ると「焼き直し」があるようだが「中止」だとどうなるのか?
これらの質問に丁寧に答えてくださった内容を、そのままお伝えします。
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【若草山焼き】なるほど納得!知られざる若草山焼きのすべて
どうぞ最後までご覧ください。
それでは始めていきましょう!
若草山焼きの本質①:行事となったきっかけは「放火」
若草山焼きが行事となる以前の話。
つまりは「起源」になった話についてお伝えします。
江戸時代にまで遡りますが、若草山のふもとに位置する東大寺と興福寺の権力争い(領地争い)が激化した背景があり、これに困った奈良奉行所は、双方立会いの下で領地を焼き払うことで和解し平穏となったというのが起源とされています。
東大寺と興福寺の権力争いは奈良時代から繰り広げられてたとされる説もあり、長年に亘って蓄積された遺恨のようなものが爆発する形となって表れたということになりますが、怖ろしいですね…
しなしながら、このことが行事化されたきっかけではなく
その本質はタイトルにもある「放火」なのだとか…
どういうことなのか?
これも江戸時代の話になります。
若草山三重目(山頂付近)に「鶯塚古墳」があるが、その墓の中には「牛鬼」という妖怪がいて、そいつが私たちに災いをもたらすためにやってくる。年が明けた1月の中頃までに山を焼き払わないと大変なことになる。
という噂がまことしやかに広まっていきました。
それを真に受けた人たちが災いを恐れて山に火を点け、大騒ぎになることが頻発するようになり、ある時には東大寺の境内にまで火の手が近づいたこともあったので、江戸時代末期に東大寺、興福寺、奈良奉行所が立会いの下で山焼きをするようになった。とのことです。
若草山焼きの本質②:正式行事となったのは「明治時代」から。当初は昼間だった
明治時代に入ってからも山焼きは続き、正式行事化されていきますが当初は「昼間」に山焼きを行っていたとのこと。現在のように夜間に山焼きをするようになったのは1900年(明治33年)からとのことです。
若草山焼きの本質③:開催日が度々変更されたのは「周囲への配慮」!?
正式行事となった若草山焼き。
当初は立春を過ぎた「紀元節(建国記念の日)」に行われていましたが、第二次大戦後の1950年(昭和25年)からは1月15日(当時「成人の日」)に変更となります。
考えてみれば、この時期の奈良・東大寺は「お水取り」行事とも被ってしまうため、日程変更は頷けます。意味合い的にも「新しい年、新しい出発を祝う」といった考え方もできますし。
ところが1999年に「ハッピーマンデー法」が成立し、翌年からは成人の日の移行に合わせて「第2月曜日の前日の日曜日」となり、何やら様子がおかしくなってきます…
- ☆「日程が分かりづらい」
- ☆「ススキや芝などが十分に枯れ切っていないので燃えにくい」
- ☆「出初式と日程が近いと、消防団員の大量動員ができない」
といった周囲からの批判が多くあり、今度は「1月第3土曜日」に変更されます。
しかしこれもまた批判の種になってしまい…
当日、山焼き開催を知らせるために打ち上げられる花火の音が、大学入試センター試験の英語のヒアリング試験の時間とバッティングするため、大学関係者から抗議が殺到。
すったもんだの挙句、2009年から「1月第4土曜日」に落ち着きました。
伝統行事の割には、結構リーズナブルなものですよね…
若草山焼きの本質④:まさに「神事」!開催率約9割!
明治時代から続く「行事としての若草山焼き」
現在の形式で行われた過去121回において、行われなかった年については「10回あるかないか」と奈良公園室担当者。
「予報で雨や雪が降るといっていても、当日になると曇り空や晴れの日が多く、結果として予定通り開催しています」とのことであり、まさに「神事」だといえるでしょう。
このことは、データで見ても頷けます。
参考までに、2009年から2022年までの当日の天気データを記しておきますね。
開催日程が固定されて以降の当日の天候
2009年 1月24日 | 2010年 1月23日 | 2011年 1月22日 | 2012年 1月28日 | 2013年 1月26日 | 2014年 1月25日 | 2015年 1月24日 | 2016年 1月23日 | 2017年 1月28日 | 2018年 1月27日 | 2019年 1月26日 | 2020年 1月25日 | 2021年 1月23日 | 2022年 1月22日 | |
晴れ | くもり | くもり | 雪 | 晴れ | くもり | 晴れ | 小雨 | 晴れ | 晴れ | 雨 | くもり | 雨 | 晴れ |
若草山焼きの本質⑤:鹿はその時間帯には「泊まり場」にいるので大丈夫
奈良公園内には現在、約1,100~1,200頭もの鹿が生息していて、日中は奈良公園内の各エリアに現れて、観光客の人たちを楽しませていますが、夕方を過ぎて夜になると「泊まり場」と呼ばれる場所へ移動してしまうため、若草山周辺にはあまり出没しないとのことでした。
もちろん動物の習性である「火のある場所には近づかない」といったこともあるようです。
ですから、鹿が誤って火の中に入り込んでしまうといった事故もありません。
若草山焼きの本質⑥:断続的な強い雨や風などがあれば中止になります
パンフレットにある「荒天中止」の明確な基準はないようです。
ただ、私たちが常識的に「強い雨風の時に、何かを燃やそうとするか?」を考えた時、誰もが納得する状況での中止はあるのではないでしょうか。
そういった意味では「何が何でもやる」というものではなく
山焼きを支える人たちや楽しみにしてくれる観衆に配慮した行事だといえますよね。
若草山焼きの本質⑦:中止の場合、来年まで何もしない
「何もしないで大丈夫?」といった声が聞こえてきそうですね。
この疑問を抱く人は、おそらく「新芽が出ない」ということが先立ちしていると考えられますが、担当者に訊くと、山焼きで燃やすススキや芝は従来から生えているものではなく「山焼きのために植えられたもの」なのだそうです。
ですから「野焼きして新芽を出して」というものではなく、観賞用として植えられたものを燃やしているので、中止になったとして特段することはありません。とのことでした。
まとめ
今回は
【若草山焼き】なるほど納得!知られざる若草山焼きのすべて と題して
筆者が実際に奈良県庁を訪れ、担当者に直接訊いた7つの疑問についての回答をお伝えしました。
いろいろな知られざる本質があるものですね。
1月の奈良は盆地や内陸特有の寒さがありますので
お越しの際には防寒対策と今般の状況を踏まえた感染対策を万全に!
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