――“見せられない私”を抱えたまま、
生きていないふりをするのは、いつまで続くのだろう。
あなたには「自分の中にいる化け物」に気づきながら、
それを見て見ぬふりをした経験はありますか?
―心に効く、音楽の処方箋―
【メンタルエイド】
BRAND-NEW MUSIC DAYS
今回は、マカロニえんぴつの楽曲「化け物」を考察します。
マカロニえんぴつが手がけた「化け物」は、
映画 『火喰鳥を、喰う』 の主題歌として書き下ろされた楽曲です。
映画の物語は、存在しないはずの“過去”が
家族の現在を侵食していくという不気味な世界観。
その空気感と呼応するように、
楽曲は“静”の繊細さと“動”の激しさが何度も入れ替わり、
リスナーの心を大きく揺さぶります。
この記事では、楽曲イメージやタイトル、歌詞から読み取れる
“内なる化け物”の正体を紐解きながら、
心の痛みと向き合うためのヒントを探っていきます。
初めてこの曲を聴いたとき、筆者の脳裏に浮かんだのは、
ノイズが走り、波形が乱れるバイオリズムのグラフでした。
・高い音が刺さるたびに脈が跳ねる
・低い音が沈むたびに心が落ち込む
・一定に整わない“生きづらさ”の波形
あなたにも、「気持ちの調子がガタガタで落ち着かない日」はありませんか?
この楽曲は、その“乱れた波形”にそっと寄り添いながら、
乱れの理由を一緒に探してくれているように感じます。
ここからは、歌詞に込められたストーリーを丁寧に深掘りしていきます。
※本記事では、著作権等により、すべての歌詞は掲載していません。
歌詞の世界観を詳しく知りたい方は、音楽配信サービスや歌詞検索サイトでご確認ください。
歌詞全体を通して浮かび上がるのは、
自分の中に潜む“化け物=本音や弱さ”と向き合えない主人公の姿です。
主人公は、自分自身にキスをしながら、「kill me(殺して)」と呟きます。
これは“本当の自分を否定したい衝動”の象徴。
「ごめん」と続くのは、自分を傷つけてしまうことへの罪悪感でしょう。
そして、サビで繰り返されるのは、
どこが壊れても、だれに侵されても、心は涙を流せないようにできている。
という“麻痺した心”の告白。
つらいのに泣けず、壊れているのにまだ立っていようとする
――この矛盾が胸を締めつけます。
しかし、後半にかけて空気が変わり、
といった解放的なイメージが並びます。
これは
「他人の目(=テレビのモニター)を手放す=承認欲求から離れる」ことの
予兆のように見えるのではないでしょうか。
ラストでは、
醜いところまで全部見てほしい
でも痛む、ずっと痛む
どうして? と問い続けます。
主人公はまだ答えに辿り着いていませんが、
「化け物を見せる勇気」は確かに生まれている
――そんな物語になっています。
「化け物」という言葉を耳にすると、
多くの人は外側から襲ってくる“脅威”をイメージします。
例えば、地球外生命体。
ジョーズのように巨大な生物。
ゴジラのように圧倒的な力を持つ存在……。
しかし、この楽曲の「化け物」は、
そうした“外敵”とはまったく異なる姿をしています。
むしろ、丁寧に歌詞を読み解いていくほどに見えてくるのは、
“自分の心の奥に潜んでいる影”こそが、この曲の化け物であるという事実です。
それは、醜さでも、愚かさでも、弱さでも、
誰もが心の中にひっそり抱えてきた“見せたくない部分”。
映画タイトルに登場する「火喰鳥」は、
世界でもっとも危険とされる実在の鳥。
そして “喰う” という行為は、
普通なら命を落とすほどのリスクを伴います。
しかし、物語の深層を探ると、
ここでいう「火喰鳥」とは異界の怪物ではなく、
人が生きていく中で避けられない“内なる怪物”そのもの
を指しているように思えるのです。
こうした感情は、時に“心を侵食する火喰鳥”となり、
主人公のように夜も眠れないほどの痛みを生み出します。
そして、この曲の主人公は逃げません。
「化け物を見せて?」と問いかけ、その痛みに向き合おうとする。
それは“倒す”のではなく
“飲み込む”という選択なのだと思います。
痛みを伴いながらも、
自分の弱さや歪さを抱えたまま前へ進む。
その姿勢こそが、映画タイトルの
「火喰鳥を、喰う」
という強烈なメタファーと呼応しています。
つまり、“化け物”とは、
外の敵ではなく、自分自身の中にいる“見たくなかった私”のこと。
そして“喰う”とは、
その弱さを否定するのでも、戦って捻じ伏せるのでもなく、
受け容れ、統合し、自分の一部として生きること。
弱さを飲み込むという行為は、
あなたが“変わりたい”と願っている証であり、
その痛みは、あなたが前に進もうとしているサインなのです。
この解釈に触れたとき、
痛みを抱えたまま生きる私たちに、
この曲がそっと寄り添っている理由が見えてきます。
心の中の“化け物”と向き合うのは苦しい。
でも、向き合った先にしか、自分らしさの再生は訪れない。
「化け物」というタイトルは、そんな人間の本質的なテーマ――
“自分を受け容れる勇気”を象徴する言葉なのだと感じます。
この曲が効く痛みは、次のような心の状態です。
化け物を“見せたら嫌われる”という恐怖は、多くの人が持っています。
でも歌は「見せてごらん?」と、小さな一歩を優しく促してくれます。
“好かれたいために生まれたの?”と言ってしまうほどの苦しさ。
テレビを売る=他人の価値観を手放す、という解釈は、
あなたの心を軽くしてくれるはずです。
“I kiss me I kill me ごめん”という矛盾は、
「自分を愛したいのに、許せない」という心の形をそのまま映します。
曲を聴くことで、
その矛盾を“自分だけのものではない”と感じられ、
心の負荷が少しずつ、ゆっくりと溶けていきます。
今回は、マカロニえんぴつの楽曲「化け物」を徹底考察しました。
マカロニえんぴつの「化け物」は、
“弱さを抱えたまま生きるあなた”を見捨てない歌 です。
化け物を抱えているから不幸なのではなく、
化け物を抱えながら「見せたい」と願うその心が、
すでにあなたを前へ進めています。
孤独で、苦しくて、自分が嫌いな夜。
どうかこの曲をそっと聴いてみてください。
あなたが抱える“化け物”が、
少しだけ言葉を話してくれるかもしれません。
BRAND-NEW MUSIC DAYSでは
他にもマカロニえんぴつの楽曲を考察しています。
そちらもぜひ、ご覧くださいね。
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